味の素KK健康基盤研究所
初代所長 東京大学名誉教授インタビュー Vol.04

味の素KKフロンティア研究所所長インタビュー
味の素KK健康基盤研究所 初代所長 東京大学名誉教授インタビュー

Vol.4 アミノ酸から作られるたんぱく質は、生命の営みを維持するために、とても重要な働きをしています。

 たんぱく質は三大栄養素の一つ。では、その構成成分であるアミノ酸は?

アミノ酸に注目して研究をされているとのことですが、アミノ酸について詳しくお話をお聞かせいただけますか?

高橋

いきなりアミノ酸の話といってもなかなか取っ付きにくいと思いますから、アミノ酸の話に入る前に、まず、『三大栄養素』について簡単に説明させてもらいます。
ヒトの生きる力の源となるエネルギーは、食物から得ているというのがこれまでの話でしたね。エネルギーとなる食物は、炭水化物、脂肪そしてたんぱく質という3つの主要な栄養素に分類する事が出来ます。
炭水化物は、デンプンに代表されるように穀類に多く含まれる物質で、消化されるとブドウ糖となって、体内に吸収されエネルギーとなります。次に脂肪ですが、脂肪はグリセロールと脂肪酸という物質が結合したもので、いわゆる油の成分です。そしてたんぱく質ですが、たんぱく質は消化されると20種類のアミノ酸に分解され、体内に吸収されます。

つまり、たんぱく質はアミノ酸で出来ているということなのですね。

高橋

そう、アミノ酸はたんぱく質の構成成分です。しかし、たんぱく質と一言で言っても、実際には様々な種類のたんぱく質が存在しています。20種類のアミノ酸の組み合わせによって何万、何十万種類ものたんぱく質が作られているのです。そもそもたんぱく質は我々の生きる力のエネルギー源となるだけではなく、生物の身体を形作る細胞の重要な成分の一つでもあるんですよ。

たんぱく質は、栄養素でもありながら、我々の身体を作っていると?

高橋

数は少し違いますが、20種類のアミノ酸を26文字のアルファベットにたとえて言うならば、アルファベットの組み合わせによってつくられる単語から作り出されるひとつの文章が、たんぱく質と言えるでしょう。そしていくつもの文章を連ねていくことで一つの小説が出来上がるとします。それが一個体というわけです。実際、ヒトの身体は約10万種類にものぼるたんぱく質の働きで営まれています。

そんなにも沢山の種類のたんぱく質は、いったいどのようにして作られているのですか?

高橋

全ては遺伝子によって支配されています。20種類のアミノ酸を使って、ある特定のたんぱく質を作るためのいわば設計図となるものを半永久的に記憶しているものが遺伝子です。その設計図には、アミノ酸の並び方の順序が記されています。ヒトの場合、設計図そのものは3万種類ほどで、その設計図に従って作られたたんぱく質は、酵素などの作用を受けることによって様々な修飾がなされ、結果10万種類もの膨大な数のたんぱく質が作られているのです。およそ3万種類の遺伝子のうちどれが、いつ、どこで働くかという調節は、遺伝子そのものとたんぱく質との相互作用で行われています。そうする事で、ある場所のある細胞が皮膚になったり、筋肉になったりとするわけなのです。また、たんぱく質は身体を構成する組織や器官になるだけではなく、生体に必要な情報物質になったり、食べ物からエネルギーを取り出すシステムを作り上げたりもしています。このように、ヒトが個体を維持していくために重要な指令を出している遺伝子の情報を、円滑に動かし続けるための役割を担っているのがたんぱく質、そしてそれを構成している成分が20種類のアミノ酸ということなのです。

ということは、我々が個体を維持していくためには、20種類のアミノ酸を全て摂取しなくてはならないということなのですか?

高橋

結論から言いますと、ヒトの場合、20種類のアミノ酸のうち11種類は自ら作っているもの、残り9種類は自ら作らないもの、すなわち食物から摂取しなくてはならないものとなっています。前者を『非必須アミノ酸』、後者を『必須アミノ酸』と呼んでいます。
そもそも生命が誕生する時には、全てのアミノ酸を自分で作らなくてはならなかったはずです。たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸を自分で作るシステムが成り立っていることが、生命誕生の必要条件です。そういう風に考えれば、生物の出発点におけるアミノ酸は全て『非必須アミノ酸』だったことになります。生物の誕生後何億年というオーダーで時間が経って、われわれのような高等動物が現れます。動物は基本的に他の動物か植物を食べる生き物、すなわち生物を食べる生物と言えますね。地球上の生物の全ては、たんぱく質を作るために同じ20種類のアミノ酸を利用していますから、理論上は生物を食べている動物はどんなアミノ酸も食物から得ることができることになります。自分でアミノ酸を作るにはそれなりのエネルギーが必要ですね。だからもし作らなくても済むのであれば、作らない方が得だということになりますよね。多くのバクテリアや植物は現在でも20種類全てのアミノ酸を自らで合成しています。逆にウイルスは自らアミノ酸を作ることなく、周りの環境からそれを得る事でしっかりと生きていけます。ヒトなどの高等動物はこの中間で、20種類のアミノ酸のうち9種類については、自ら作ることを止めた生物だと言うことができますね。

ヒトが自らは作らなくなったアミノ酸が『必須アミノ酸』ですね・・・・・・?

高橋

そう、必須アミノ酸、すなわち自分で作れなくなったアミノ酸は、『作らなくても済む』から作ることを止めたといえます。例えばビタミンは自分で作りませんよね。普通の食生活では欠乏は問題になりませんが、いったん欠乏すれば重大な障害が現れますから、生きていくうえで絶対に必要なものであることが判ります。このビタミンにせよ、必須アミノ酸にせよ、一方では食物から得られる可能性が高く、一方では作るのに相当な手間を要するものについては、自らの負担が軽減されるという意味合いで、ある時期に外から摂取することでまかなうようになったと言えますね。全てのアミノ酸を合成するために投入している負担の一部を、別の「もっと有用なところ」に振り向けていると考えればいいでしょう。

では、なぜ食物から得られるはずの『非必須アミノ酸』は作り続けているのですか?

高橋

その疑問はもっともですね。そこが非常に大切なところなんですよ。非必須アミノ酸は、自身で作るべき明確な理由があるからこそ作るのを止めなかったと考えるべきだと思います。そういう立場に立てば、非必須アミノ酸は何処で役立ち、何故作らなくてはならないのかということを詮索する必要が生じますね。我々のアミノ酸研究が注目している一つの大きなポイントです。

たんぱく質は、ヒトの生きる力のエネルギー源のひとつでもあり、且つ私達の身体を形作るためにとても大切なものなのですね。次回は、アミノ酸と健康の関わりについてのお話をさらに詳しく伺いたいと思います。

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ヒトが本来持っている生きる力を常に考えて研究を続け、研究の成果を信頼頂ける商品を通じて人々に伝えていくこと。これが我々の願いです。

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アミノ酸から作られるたんぱく質は、生命の営みを維持するために、とても重要な働きをしています。

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